ーーそんなバカな。彼女からそのワードが出てくるとは。

かつてないほどの恐怖に包まれた。

ばっバレとるやん。

何で。何で知っとんねん!?

あらゆる可能性が脳内を巡る。いつどこでだれが?

俺か? 俺のスマホが見られた? それともアップしていた写真か? 内容?

女性か? はたまた彼女の客とか? まさかケンさんとか!?

 

 

【レンジブログ215】フィリピン婚約者にブログ運営がバレる!?

 

 

しかしここは取り乱してはいけない。落ち着いて話を合わせよう。

 

「Haha, yeah it was crazy tonight. (ははっ、そうクレイジーな夜だったね)」

「Welcome back to Manila, Range. (マニラにおかえりなさい、レンジ)」

「Haha, yeah. I remember now.(ははっ、そうだね。思い出したよ)」

 

私は泥酔していたが気が狂ったフリをした。もうだって訳分かりませんもん。

決してマリーと目を合わすことが出来なかった。

 

ーータクシーはバーチタワーへ着いた。

マリーが「ちょっと待ってて」と言って部屋へ向かった。マリアの事が心配で様子を見てくるようだ。

 

通りの上にて千鳥足の私は叔母に絡んだ。

「Did you enjoy tonight? (今夜は楽しみました?)」

「Yeah, it was amazing! (ええ、すごく楽しかったわ)」

私たちは肩を組んで爆笑した。「飲み過ぎたね!」とお腹を触り合う。手の勢いが余ったフリをして叔母の乳を自然な感じで揉んどいた。

 

その様子を見ていたのかベラージオスクエアのスタッフが「ダンナ、今夜も寄っていきます?」と声を掛けてきた。

楽しくなっていた私は彼も交えて三人で世間話を始めた。

 

途中私がフラつくと「Are you okay!? (大丈夫!?)」と二人に支えられた。それは記憶にある。

 

ーー娘の就寝を確認したマリーが戻ってきた。

「She is sleeping well. (よく眠ってるわ)」

 

良かった。

私はマリーに「腹減った! 飯行こうぜ!」と勢いで押し切った。

ベラージオのスタッフにしつこく絡まれたがマリーが「去れ」と一蹴。

私たちは別の近くの飲食店へ向かった。

 

この後おそらく私を待ち受けるのは未曽有の尋問だろう。

 

彼女はマリアの父親に去られて田舎からマニラへ。娘だけではなく家族を養うため。幼少期も含めて数多の経験をしてきただろう。

その人生の中で私と出会った。私に対して抱く感情は特別なものであるはずだ。

当然他に男がいるかもしれない。何なら彼女は独身ではないかもしれない。私も同様に彼女を疑っていた。

ただ二人で大使館へ赴いたこと。お互いに公的な書類を確認したこと。ここまでの進捗は今まで考えられなかった。私たちはお互いに信頼した上でそのような行動を選択した。

 

しかし彼女はとうとう到達したのだ。いや到達していたのかもしれない。

いつの間に…… 全く気付かなかった自身が恥ずかしい。

私の全てをクレイジーマニラに置いてきたのだから。

 

だからこそいつだ。いつから知っていた…… この旅程中なら救いがある。限られた時間で私のブログを全ては読めまい。

しかしもしもっと以前ならば……。

あかーん!

詰みだ、がはははっ!

 

ーーこの後のことは記憶が散々となっている。

何処かの年季の入った飲食店へ入ったのだろう。スマホに残された写真を後から見て知った。

店内での出来事は酔いのためほとんど覚えていない。

 

KTV アフター 夜遊び

 

上記のスープの写真。全く同じものが写真フォルダに200枚ほど残っていた。

おそらく私は『現状かつてないほどの危機だ。しかしこのエピソードは絶対にネタになる。読者の皆さんに笑っていただける』とブロガー根性で記録用に撮ったのだと思う。

またマリーとの深刻な会話を避けるため追い酒を大量にしたようだ。

焼酎のショットグラスの写真が同じく200枚ほど残っていた。

テーブル上にカメラを向けてショットボタンを押し続ける私の姿は正気を失っていたと思われる。

 

ーー午前四時過ぎ。

ご機嫌でレストランを出た。ここからは記憶にある。

過去最高クラスに酔っぱらった私だが時刻だけは気にしていた。

 

部屋に戻って帰り支度を急いだ。荷物は元々少なくまとめていたためすぐ完了した。セキュリティボックスの中身さえ無事ならば他は問題ない。

私は残っていた日本円の現金を全てマリーに渡そうとした。「これでしばらく足りるかな」結構な額だったと思う。叔母がびっくりしていた。

しかしマリーは真顔で「要らない」と言った。

「いいから!」私が押し付ける。

「I don’t need. When next time? When will you come here? (要らない。次は? 次のマニラはいつ?)」

「Next month! (来月!)」

「Okay. I love you, Range.(分かった。愛してるわレンジ)」

「I love you more. (愛してるよ)」

 

とりあえず雰囲気は良好だぞ。笑顔だ。

私の思い過ごしか…… これはバレていない。あのワードは咄嗟に出た可能性が高い。

よっし! そうなれば私の冒険は続く。また来月だ!

私は彼女の厚い信頼に感謝した。

 

ーーケンさんから着信があった。バーチタワーのフロントに着いたようだ。

 

私は最後に彼とマリー三人一緒にお別れを言ってこの旅を閉じたかった。

なぜなら今回ここマニラに来た理由は当初はマリーの存在ではなく、彼との関係があったからだ。

『ケンさんと再びマニラに降り立つ。そして一緒に笑う』

もちろんマリーの存在は大きい。そもそも彼女が居なければここまでマニラに執着していないし、彼との冒険は始まりすらしなかった。

リアルドラゴンクエスト。それが再び動き出したのだから。

 




 

タイミング悪くマリアが目を覚ましたようだ。「またすぐ会えるからね」と伝えると「おじさん、またね!」と笑った。「あっ、今スーパーマンが迎えに来てるから。ちょっと待ってて」私はエントランスへ走った。

 

ーーケンさんとハナの姿があった。

「どう? ちょっと最後に挨拶だけ……」

「無理です! レンジさん、何時だと思ってるんですか!」

えっ?

「挨拶だけでも……」

「嫌です!」

 

……は?

 

彼はハナと別れの感傷に浸っていたのだろう。数分も彼女と離れたくないようだ。

どうせ私はエレベーターを往復するんだ。それくらい付き合えよ。

何の恩も感じねぇのか。俺は親じゃねぇ。無償の愛じゃねぇんだ。

ははっ、固定の女が出来たからって他はどうでも良いってか。

 

「調子に乗んなよ、クソがっ!」

 

悪酔いしていた私は捨て台詞のように吐き、荷物を取りに行った。

 

ーー改めてマリーたちに挨拶をした。「ケンさんは調子が悪くて。すぐに出発するね。じゃここで!」最後のハグをした。

 

エレベーターを降りる間に気持ちを落ち着かせる。

ふうっ。

何のストレスか不明だがケンさんに当たってしまった。申し訳ない。彼なりに我慢の限界をとうに超えていたのだろう。

 

「ごめん、お待たせ!」

「ええ、行きましょう!」

 

ケンさんと私をハナは見送ってくれた。

 

ーー空港へ急いだ。

急いだんだ確かに。

しかし……

 

入国審査、荷物検査を終え搭乗口付近へ来たとき安心したのか気が抜けた。

「ケンさん、腹減った。飯喰おう!」

「ですね。でも急ぎましょうね!」

私たちは近くの定食屋に入った。

 

ご存じの通り私の食事スピードは亀より遅い。

喰い終わらない内に搭乗予定の飛行機は飛び立った。

 

あれっ。次の便は? ってか陰性証明って有効なの72時間だよね。これはヤバい。

 

私は航空会社の社員や空港職員と言い合いをしつつ、他の乗り遅れ搭乗客の力を借りつつ。

右往左往しながら何とか当日有効な搭乗券を手にした。

ケンさんに土下座級の謝罪をしたと思う。

 

ふうっ。やっと帰れる。

 

ーー帰りの機内では爆睡していた。

着陸の衝撃で目が覚めた時、首が正面に戻らないほど寝違えていた。

 

特急に乗り込んだ時、ケンさんに本音を話した。

「今回ケンさんとマニラへ行くことが出来て本当に良かった。到着した日の夜景は最高だったね。泣けた。あそこがピークだったかな、ははっ。でも本当に楽しかった。俺の人生で出会った最高な人はケンさんだよ。友人や親友と呼べる人は何人か居るけどケンさんは特別だね。本当にありがとう。今回も迷惑ばかりかけたね。それでも付き合ってくれて。あっ、でもね。マニラでやり残したことがたくさんあるんだ。絶対にまた行こうね」

 

ケンさんも同様な言葉を返してくれた。

止まっていた歯車が動き出した。

さぁ、改めてクレイジーマニラの始まりだ!

 

 

ーー帰国して一週間後。

お盆休暇が明けた初日。酷暑の中コンビニへ昼食を買いに出たときだった。

 

知らない番号から電話が掛かってきた。+63のフィリピンからだった。

 

「もしもし。安倍さんですか?」

「はい?」

「失礼いたしました。安倍レンジさんの携帯でよろしかったでしょうか」

「はあ。そうですが」

「申し遅れまして私、佐々木という者なのですが少々お時間よろしいでしょうか」

「はい」

「実は『マリッセ・ゴールド・スウィフト』さんについてお話がありまして」

「はい?」

「スウィフトさんのことご存じですよね?」

「はい?」

 

私は彼が何を言っているのかよく分からなかった。

他人がマリーの本名を日本語で呼ぶ響きを初めて耳にしたからだ。

 

「マリッセ・ゴールド・スウィフトさんです。ご存じですよね?」

 

「……はあ。はい。存じ上げております」

 

「私彼女の……」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

【予告】

次話、レンジブログ完全完結予定

「レンジもマリーもオノケンも死す!?」

 

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レンジ
オノケンと同じ会社の先輩であったレンジ。数年前からマニラを訪れるようになり、やがて現地法人を持つまでに。趣味は海外サッカーTV観戦。 実体験に基づいたフィリピンにおけるマニラの闇、貧困と格差、現地ビジネスなどオノケンとは違う視点の記事をアップしていきたいと思います。

8 コメント

  1. 予想の上をいく展開なんですけど😱
    誰っすか?🤣
    えーーーーっ!大団円じゃないんですか?
    そもそも何2話に分けてるんですか!
    次回早よ!😅✨

    • おはようございます!あと一話から二話になると思います。ラストシーンはエッジさんも笑顔になってくれるんじゃないかなと思ってます!楽しみにしててください!

    • コメントありがとうございます!夫、彼氏、太客、身内、ブローカー、警察いろいろ考えられますね。次話かその次で完結予定です。最後までお付き合いください!

  2. あの時のレンジさんはこう考えていたから言葉が荒くなったんだなぁ
    大団円になるのかそれとも、、、?
    次回が気になる!!

    • あざっす!基本私のブンブン振り回しに付き合ってもらってるので典型的な逆ギレでした。申し訳ありません。

  3. なんちゅう終わり方…😭
    また気になって眠れません!
    マリーはクレマニの記事のことは知らないような気がします。
    マリーがクレマニの記事を読んでいたら、レンジさんは今日本にいないかもですね😂😂😂

    • さすがミルコさん!先ほど最終話書き終えました。公開は来週月曜になると思います。きっと気に入って頂けるラストだと思います!

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