[レンジブログ前回のあらすじ]
フィリピーナ彼女だったマリー。レンジは彼女に会いたい一心でマニラへ向かう。当初、ミンダナオ島に居るものと思われたが、ルソン島の叔母の住むパンパンガ州に滞在していると告げられる。
[前回記事]
【レンジブログ159】年末のマニラへフィリピンの元彼女を探しに飛び立つ
レンジブログ
[レンジブログ第一話]
【レンジブログ1】日本人経営者と私、フィリピンでの入国審査へ
レンジブログは第三章で完結しています。
そして、それ以降のエピソードが「オノケンブログ」の内容になります。
オノケンブログ
[オノケンブログ第一話]
オノケンブログ第一話「転落と後悔」
また、レンジ個人のその後のエピソードは「外伝」という形で記述しています。
ここまで三つの外伝がそれぞれ完結しています。
レンジブログ外伝
[外伝一章第一話]
【レンジブログ101】フィリピーナをフィリピン国内旅行に誘ってみた
[外伝二章第一話]
【レンジブログ121】フィリピンから帰国、その日にフィリピンパブへ
[外伝三章第一話]
【レンジブログ140】フィリピーナ彼女を初めて日本へ招待してみた
【レンジブログ160】マニラで出会ったフィリピーナの生い立ち(前編)
彼女の生い立ちを前編と後編に分けて記述していきます。
マリーは、ミンダナオ島の北部、Cagayan de Oro カガヤンデオロ と言う都市の外れ、ある小さな漁村に生まれた。
当時一緒に暮らしていたのは、祖父母、両親、三つ下の弟、まだ幼い妹の七人家族。
歳の離れた姉が二人居たが、彼女の物心ついた時には外国へ嫁ぎ独立していた。
家は砂浜沿いのトタン屋根集落。
寝床として、ヤシの木に引っ掛けたハンモックで皆寝るような簡素なものだった。
家族の生計は漁業で主に両親が担っており、特に父親は村でも腕の良い漁師として知られていた。
村の人々、家族の皆から尊敬を集める父親。
マリーは彼のことが大好きだった。
幼少期のマリーは、仕事に忙しい両親のため、主に彼女が歳の離れた幼い弟妹の世話をしていた。
三つ下の弟は自閉症の発達障害があり、彼の世話まで含めると多忙な日々。
そして、その合間を探しては勉強する事が一番の楽しみだった。
村の「学校」と呼ばれるところは、保育園、幼稚園、小学校を兼ねていた。
立派な校舎はないが、彼女の大好きな場所であり、唯一安息できるところ。
彼女は家でも睡眠時間を削って勉強していた。
特に算数など理系科目が得意で、将来の夢は教師。この学校で働きたいと思っていた。
ーー両親は貧しいながらも、マリーが一家自慢の娘であり、彼女の素晴らしい将来を期待し、必死に漁でお金を作った。
豊漁の時は父親が気前よく村に分け振る舞うこともあった。
村の皆がマリー家族を尊敬し、お互いに認め合う。
一家皆も村の人々も全て、彼女の将来を応援していた。
代々、この家族は漁業を生業としており、祖父母はすでに引退。
祖父は晩年にひどいリウマチを患い、歩行が困難なものの、いつも一家のムードメーカー。
祖母は優しく日常的に子ども達の世話や家事などを助けていた。また、市場のアルバイトとして、母親と共に店舗に立つこともあった。
ーーマリーの姉二人からの仕送りは無かった。連絡はあるものの、ほとんど音信不通の状態。
それぞれマレーシアとシンガポールにて新たな家族を持っている。
おそらく忙しい日々を過ごしているのだろう。
そして、この頃からマリーは、「私が将来、この家族を支える」と心に決めていた。
幼少期の彼女は、貧しいながらも家族とともに幸せな時間を過ごしていた。
ーー彼女の特技は、勉強以外にも「カヌー作り」があった。
父親が彼女に作り方を教えて以来、カヌー作りと言う”ものづくり”にも熱中した。
大木を大人にオノで切り落として貰った後、彼女がナタとナイフでカヌーの形に削っていく。
子どもの力のため、小型でも一隻仕上げるのに一カ月以上は掛かるが、彼女の作るカヌーはとてもクオリティが高く、約3,000ペソで地元の漁師に買い取ってもらえた。
それは家族にとっても貴重な収入源であり、父親が漁に出られない時などは皆から感謝された。
マリーは誇らしかった。
「神様は私に色々な力と幸せを与えてくれている。家族と過ごすこの日々に深く感謝します」
カヌーを削り続け、弟妹の世話をしながら、時間を見つけては勉強していた。
忙しく充実した幸せな幼少期だった。
ーー中学校に入ると、弟妹がかなり自立してきたこともあり、マリーの手をほぼ離れた。そして、彼女はさらに勉強熱心になった。
とにかく勉強が楽しかった。
彼女の学力はさらに向上し続け、中学校内でも将来が期待されるほど。
将来の夢は教師も良いし、看護師も目指してみたい。人に直接関わるような仕事をしたいと思うようになっていた。
またマリーは中学生になると大人のような妖艶な美しさを備え始める。幼い頃からその美貌は村の評判だったが、年齢を重ねるごとにその美しさは増していった。
男子からは多くのアプローチを毎日受けた。もちらん、それらを全て彼女は断った。
将来は私が家族を養うと心に強く決めていた。
それでも思春期の真っ只中。日常的に男子のことは気になる。
クラス内に気になる人も出来た。
決して彼女から告白するような事はなかったが、片想いすらも神に感謝した。
結局、意中の男子からのアプローチは無かったが、それでも学校生活はとても楽しかった。
日々、幸せだった。
ーーそんなある日、突然祖父が倒れた。
後に分かったが、回復の見込みのない脳梗塞。
病院での療養費と常用薬は高額であり、とても両親の漁業では捻出できない額だった。
長期の入院は叶わず、すぐに自宅療養。寝たきりとなってしまった祖父。
マリーの進学のためと思っていた全ての蓄えはあっという間に底をついた。
周辺の別世帯、親戚も常に貧しい状況で、お金を借りる事はできない。
家族はこれ以上の祖父の通院、治療を諦めた。
誰もが祖父の深刻な容態を悟りながらも、回復を願う。
マリーはその頃、学校から帰ると必ず祖父の体を、絞った濡れタオルで拭いてあげた。
毎日、神に祈りつつ。
「大丈夫。ご加護は必ずある。私は神を信じている」
しかし、自宅に戻ってきた祖父はその二ヶ月後、静かに息を引き取った。
約70歳、マリーが13歳の時だった。
ーーこの頃から家族の様子が徐々に崩れて行く。
この年、歴史的な不漁に悩まされたのである。
十分に魚が獲れない。
稼ぎが激減し、米を買う事も苦労するようになった。父親と母親だけが今の絶望的状況を理解していた。
それでも、家族は始め皆笑っていた。
付近に生えるバナナやヤシの実、イモを食べれば、飢える事はない。小魚なら浜辺でいくらでも獲れる。
しかし、一家の腹が満たされることはなかった。育ち盛りの弟妹は常に空腹を感じているようで、この頃からすぐに痩せ始めた。
マリーは一時的に学校へ行く事を止めた。
彼女は家計を助ける為に、カヌーを削った。徹夜続きで倒れることもあったが、体力のある限り削り続けた。
しかし、不漁続きの村では、彼女のカヌーはあまり売れなかった。
家にはもうお金がない。村の皆も同じ。
漁村全体が疲弊し始めていた。
ーーマリーはカヌー作りを諦め、少し遠方のマーケットで働くことにした。清掃のパートとその他雑用だった。
給与は一日で100ペソだった。
しばらくすると、マーケット内の店員を任されるようになった。給与は150ペソに上がった。
父親の所得がほとんど期待出来ない中、一家の貴重な財源だった。
しかし、全く足りない。
祖母、両親、弟妹、マリー、家族六人が腹を満たせる事は決してなかった。
近所に生えている果物、作物はその頃はもう実を残していなかった。
父は悪天候の日でも漁へ出た。
家族を食べさたい思いは確かにあった。
しかし、ポロポロと魚は獲れるが、それだけだった。
しかも、獲った魚で得た金は、すぐに自身の酒に変わっていった。
彼の高いプライドは自然には勝てなかった。
マリーの所得だけで、家族を養う事などは到底無理であり、家計を担う父親は急に威厳を失っていった。
ーー弟妹は日中、大通りに出て物乞いを始めた。幹線道路で渋滞に捕まったドライバー相手に、窓拭きや直接チップを懇願する物乞いバイト。
幼いながらも、何とか家計を助けようとした。
小さい体で、車の行き交う危険な道路上での物乞い仕事。家族のためにと子ども達も理解していた。
そして、ようやく父親が動く。
家族の強い不満と居心地の悪さを感じていた彼は、あまり気が進まないまま漁村の長に相談に行った。
父親「漁に出ても魚が取れない。お金が全くない。周りも同じ状況だから借金もできない」
長「そうだな。村全体が今困っていることは私も辛い。他の仕事でもどうだ?」
父親「私の家族は代々漁師だ。高いプライドがある。絶対に他の仕事はできない」
長は、父親の言い分をしっかりと聞いていた。
そして、静かにアドバイスをした。
長「お前の家族には年頃の綺麗な娘がいただろう…」
瞬間、父親は激怒して、その場を去った。
そんな提案など、受け入れられるはずなどない。
マリーは最愛の娘で、家族の未来なのだ。
その日を機に父親は酒を断った。
自分が甘かった。家族のためにもっと出来ることがあるはず。
父親は後日、長から少額の借金をして、船に簡素な照明設備を着けた。
彼は夜も漁に出る事にした。
そして、朝早くから夜更けまで海で魚を探す。
付近の漁場をいろいろ変えてみた。魚を獲るためにあらゆることを試みた。
漁で家族を食わせたい。その一心だった。
しかし、多少は漁獲高が上がったものの十分ではなかった。
家族が満たされることはなく、海を初めて恨んだ。
しかも追い討ちをかけるようにその年は台風も続き、漁にすら出れない日々も。
瞬く間に家族が飢え始めた。
村内も同様で皆生気が失われつつあった。
ーーそのような時、幼い妹が倒れた。
炎天下、幹線道路で物乞い中。
喉が渇き、側溝の泥水を啜った。
そして、胃腸炎を発症。
加えて、熱中症、栄養失調気味だった事も重なり、著しく体力が低下していった。
呼吸が浅い。
一刻も早く病院に連れて行かなければ。
父親は漁師を諦めることをようやく決意した。
彼にとってはとてもとても辛い決断。
代々使ってきた大型カヌー、一家の宝であったあの双胴船を売ることを決めた。
全ては家族の医療費、生活費を捻出するため。
家族をこれ以上飢えさせてはならない。マリーには勉強してもらいたい。
彼にとっては分身同然の船でも、生きる家族のため。
船を売る事にした。
ーーマリーは父親の葛藤、家族の困窮が痛いほど分かっていた。
そして、「自身の体」が唯一まとまったお金になる事も分かっていた。
国内の貧しい田舎では珍しくない。フィリピン人であれば、皆知っていること。
マリー「お父さん、私…」
父「何も言うな。これで良いんだ。お前はしっかり勉強しなさい」
父は船をお金に代えた。100,000ペソだった。
これで良い。
これで、幼い娘を病院に行かせて、しばらくは家族が食える。
その間に別の仕事を探して、一から出直しだ。
マリーを差し出すなど、神が許しても父親の私が許さない。
私が家族を守る。
しかし、一家の不幸はまだその先にあった。
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うーん、いつもと違う展開に戸惑いましたが、考えさせられる話です… コメントが難しい
フィリピンにはいくらでもこのような話はあるでしょう。マリーはまだ裕福な方じゃないですかね?
彼女のことを知るには良い試みだと思いますが
よく描写されていますね!マリーの話に感動覚えます。過酷な現実を見ればキリがありません。クレマニでは斬新な記事に拍手?
後編も気になります。
女性のプライベートをここまで書くには勇気がいる… レンジ氏の覚悟が伝わってくる
フィリピン人は過去に何もなかった子も少ないでしょうね。でも彼女らはそれらの苦労を見せることなくいつも明るいですよね。そんなところに魅かれるのかもしれませんね。真面目なコメントでした。
マリーのイメージ変わる 見直したと言うか…
ミンダナオやビサヤからも多くの人がマニラにやって来てますよね。彼女らの背景が少しわかったような気がします。こうしたストーリーも参考になります。
上を見ればキリがない
どこかで納得できるのは自分
恵まれていなくても幸せの沸点が低いのは幸せ
恵まれすぎてる我々が何だか申し訳なく感じてしまいます。
色々な形でご縁のあるフィリピンに、少しでも恩返しができたらいいのですが。
その気持ちを忘れずに、これからもフィリピンの皆様とお付き合いしていこうと思います。
マリーの話はせつない。
しかし、上手くかけてますね。下手な小説より上手くかけてますね。
生い立ちをそこまで詳細に知りうる関係だったのですね。
また、ここまで聞き出せる語学力に脱帽です。