ーープレミアクイーンにてショーアップ。
私は再び失敗。しかし、ケンさんは究極の女性と出会ったようだ。確かにアイドル顔でスタイルも良い。
「レっ、レンジさん!」
言いたいことは分かる。運命的な出会いを果たして興奮気味なのだろう。
さらにその状態で私の指名嬢を見て「なぜに!?」と目を丸くしたのだ。
【レンジブログ205】マニラの夜遊び、マラテのKTVからアフター焼肉!
ーー私たちは乾杯し、会話をスタートさせた。
「Nice to meet you. (初めまして)」
声を掛けると彼女は恥ずかしそうに返事。初々しく照れている様子だった。
私は陽気な日本人を演出して彼女の緊張をほぐした。失礼、私は元々陽気だった。
「Hey, what’s up! (やあ、調子どう!)」
「I’m so happy. Shimei, first time. (嬉しいの。指名、初めて)」
彼女の名は”メテオ”。スタイル良く顔も整っているのだが肌荒れが凄い。先ほどSuperStarで指名した女性も酷かったがこの人はさらに凄い。月面を超えてもはや小惑星だ。
髪で表情を隠した…… 劣等感を抱いているようだった。
いくつか質問すると彼女の状況が分かってきた。
この仕事を始めて数日の新人。指名を受けたのは私が初めて。客との会話に全く慣れていない。ドリンクを捌く手順もぎこちない。
ドレスを着ていなければ純朴な少女のようだった。
ーーケンさんが自らカラオケのリモコンを持った。
エド・シーランを入れた。
こんな序盤で歌い始めるなんて。完全にアプローチ開始だな。
この後おそらく本命彼女の”ハナ”に会うのだろう。久しぶりの再会を願い続けてそれがとうとう叶う。今夜はお互いに燃え上がるはずだ。それを控えていてなお新しい女性にアプローチしている。
指名嬢の見た目は”ハナ”の上位互換版のよう。
もしかして彼は乗り換えようと画策しているのでは。
ブスゴリラめ…… 嫌いじゃないぜ。ようこそこちら側へ。
ーー私たちも何か歌おうかとなり、まず私がミックスナッツを歌った。
メテオは「私カラオケ歌えないの」と言う。「フィリピンの曲で良いよ」と伝えても「曲自体あまり知らないの」と。ほう、珍しい女性だな。
彼女はリモコンを難しそうに操作し、目的の曲を一つ見つけたようだ。
「Otso Otso, do you know? (オチョオチョ、知ってる?)」
「Yeah, for kids right? (うん、子どもの歌でしょ?)」
「Yes! OKay? (そう! 良い?)」
メテオは顔面のクレーターが目立たなくなるほどの満面の笑みを浮かべた。
陽気なミュージックである。「1足す1は2、2足す2は4」のような単純な歌詞だがフィリピンでは超メジャーな曲らしい。
ちなみにこの歌は色々なアーティストにカバーされている。
日本語バージョンもあるようだ。
誰が日本語歌詞を作ったのか知らないが偏見に満ちており炎上必至の差別的内容。フィリピン人女性の心情を上手く表したつもりなのだろうが完全にスベっている。
肝心の「ココロイタイお金大好き」が抜けているじゃないか……
もちろんメテオはタガログ語バージョンを歌った。歌ったのだが歌えていなかった。
超ド級の音痴だったのだ。別の惑星から来たのかと思うほど音程もリズムすらも全く取れていない。
本人は自覚しているようで何度も「下手でごめんなさい」と謝る。「何で? 私はあなたの歌声大好きだよ」と返した。それを聞いた彼女は私の腕を掴んできた。
メテオよ…… 満足な幼少期ではなかったのだな。かわいそうに。
俺が飼ってやろうか。そのクレーターはパテで埋めればいい。すればまあまあの美人だ。
その後それぞれ連絡先を交換。カラオケと談笑を楽しみワンセットで店を出た。
ーーケンさんが満足そうに話す。
「さっきの女性、最高です。運命ですね。プレミアクイーン通いますわ。その価値は十分にあります。何より話しやすいんですよね。それが結構重要な理由で」
以前彼は「ハナとコミュニケーションが続かないことがある。別に無言でも過ごせるが何となく会話がないと辛い」と言っていた。
普通の男性ならば『彼女としっかりコミュニケーションを取りたいので英語を頑張ろう。いやタガログ語だ』となる。
しかしケンさんは有史以来のクソ野郎なので、語学力を上げる気はあるのだろうが一向にその気配はない。マニラ初期に比べると格段に喋られるようになってはいるが。
自分に合う女性を探す方が手っ取り早いし、そちらの方が正解かもしれない。居心地の良い女性しかも美人となれば申し分ない。
彼とハナは相性が悪いのかもしれない。体と情の関係だけなら別れてしまえばいい。いや、キープしてさっきの新しい女性を落とすべきだ。
とにかく私はケンさんの不幸が楽しいし、今夜のハナとのワンチャンも消滅しろと心のどこかで思っている。正確には『もっと人生狂っていけ』と願っていた。
自身の指名失敗が続いたこともあるが私の性格は元々ねじり鉢巻き状にひねくれている。
ーーハナが働くKTV”愛人 Aijin”へやってきた。
私はハナもそうだが彼女の姉と親しい仲だった。バタンガスへの旅行の記憶が蘇る。
現在姉の方は実家に帰っており、もう夜の仕事をすることはないらしい。今回の渡比にあたり姉にも会いたいなと思っていたので少し残念な気持ちがあった。
入店して女性たちの横を過ぎ、奥のBOX席へ通された。
私たちはビールをオーダー。
周囲を観察していると間もなくハナが現れた。
彼女は私に会釈した後すぐにケンさんを抱きしめた。
熱い抱擁。
二人とも我慢汁と愛液が出ていたに違いない。ビッチャビチャでソファが濡れていた。それほど真の恋人らしい光景だった。
会えて良かったね。長かったね二年間。今夜は情熱的な夜をお過ごしください。私は十分に幸せをもらったよと達観していた。
「レンジさん、すいません。ショーアップどうします?」
「ありがとう。気を遣わなくて良いよ。二人の時間を優先して」
「後で良いです。ここにハナの親友が居るらしいんですよ。ショーアップの中から当てて欲しいって」
「へー、いいよ」
ハナとケンさん私という並びのBOX席。その前に女性たちが立つ。
誰だろうかハナの親友とは。
ハナの視線は私の表情を見ている。
「ごめん全然分からない。ヒントは?」
ハナは「ダメよ」と首を振る。ケンさんも親友と面識があるらしくニヤニヤと私を見る。
「レンジさん、親友の女性はハナとお姉さんのルームメイトだったんですよ」
そんなの全くヒントになっていない。どの女性だ。額に『肉』か何か書いておいてよ。
見事当てて賑やかな席にしたいのだけど…… 分からん!
私は悩んだ挙句一番タイプっぽい女性を指名した。
ハナに正解を聞くと外れらしい。何なら同じ職場ながら一度も会話したことがない女性とのこと。ごめん、何かごめんなさい。
静かな会話で時間は始まった。
しかも隣に座った彼女の顔。遠目に美人だと思ったのだが、月面どころか小惑星どころか火星のような肌である。今宵三度目のミスだった。
ーーケンさんとハナはもうほぼセックスをしていた。
何より彼女の愛の方が強いように見えた。おそらく会えない間のケンさんのたゆまぬ努力がそうさせたのだろう。とにかくラブラブだ。
私は二人の幸せを見届け、自身のミッションは完遂した気でいた。
何だかんだケンさんが笑って幸せそうなところを見たかった。本当に嬉しい。やはりこのタイミングでマニラへ来て良かった。
「ハジメマシテー」
火星人が話しかけてきた。
彼女の名前は”マーズ”。若い頃は福島のフィリピンパブで働いていたらしい。年齢は25歳と言うが近くで見ると肌のせいか30歳くらいに見えた。
私は適当に相手をしてビールを飲みカラオケを歌った。
今夜はこの後アフターに行って解散だろう。初日としては十分楽しんだ。明日以降はマリーのこともあるし大人しくしておこう。
この時はそう思っていた。
ーー時間はラスト近かったのでワンセット終了前に店を出た。
「ケンさん良かったね、やっと会えて」
「はい。ちょっと泣きそうになりました」
「ははっ、プレミアクイーンの子は?」
「それはそれです」
ケンさんよ立派になったなぁ。元々夜遊びの素質はあったんだ。ルックスも良いし私などとうに超えている。嬉しいよ。
しばらくすると着替えた女性陣が出てきた。
マーズとハナ、もう一人の女性。”アンナ”という小柄なヤンキーっぽい女性だった。ハナの親友らしい。
そうかこの人か。私のタイプじゃないし全然分からんわ!
五人で近くの焼き肉店へ向かった。
これもマニラに来たらやりたかったことの一つ。『マクチャンの腐ったような色の肉を喰う』こと。
席は奥からケンさんハナとアンナ。対面に私とマーズ。
オーダーした肉や添え付けが運ばれてきた。
店員が焼いてくれるシステムは無くなったようで客側が肉を捌く。ハナがトングとキッチンバサミを持ち器用に焼いてくれた。
アンナはスマホを触っている。横目でケンさんカップルを監視しているのだろう。
マーズはこの場の居心地が悪そうだ。女性陣とは親しくないためアウェーを感じている。かなり気の毒な時間だろう。
私は彼女へ肉を運び、話しかけて何とか笑顔になってもらおうと試みた。しかし薄い反応しか得られない。
「マーズ大丈夫? 疲れてるね。この場は気にせず帰宅していいからね」
「ありがとう。そうね用事を思い出したから帰るわ」
滞在15分ほどでマーズは席を立ち母星へ還っていった。
彼女には本当に申し訳ない気持ちになった。一応連絡先を交換していたので後でフォローしておこう。
ーー四人になって私の焦燥は少し落ち着いた。
焼酎ボトルをオーダーして皆で乾杯。
しかし会話は弾まない。場の空気に変化は無く暗く重たいまま。
ケンさんは至福の表情で肉を頬張っている。呑気なもんだ。それに対しハナは肉を焼き皆の小皿へ取り分ける。
この状態が続いた。
我慢ならず私はケンさんをトイレへ連れ出した。
「ケンさん酔ったの? どういうつもり?」
「はい?」
「ここはケンさんが主になってハナをプリンセスにしなきゃ。ワンチャン確実って余裕ぶっこいて酔っぱらってデヘヘってしてる場合じゃないでしょ」
「あっ、すいません」
「ハナはケンさんと一緒で幸せだろうけど、ケンさんがもっとリードしなきゃ。『私のプリンスは最高にカッコよくて優しくて私のことを超愛してるの』って俺やアンナに示したいんだよ」
「はい。そういうマニラ夜遊びの掟みたいなのありましたね」
「ここでハナが気分を害したら台無しだよ。アンナもチェックしてる。感情MAXの状態でセックスするんでしょ。器の大きい気の利く男性を振舞って。とにかくハナに優越感与えなきゃ」
席に戻るとケンさんはトングを持ちハナやアンナの小皿に肉を運び始めた。
女性陣は「そんなに要らないわ」と遠慮する。ケンさんは「肉こそパワー!」と強引に食べさせる。ハナは恥ずかしそうに受け入れていた。
よしよし、そうそう。全く。しっかりしてよケンさん。その光景を見届け安心した私は残っていた焼酎を飲んだ。
ようやく楽しい時間となりボトル追加。四人で乾杯を繰り返し、ベロンベロンに酔っぱらった。
さて、そろそろ解散だ。
ホテルに戻って寝よう。
ーー店を出た。
ケンさんカップルは腕を組み合っている。私とアンナは少し離れて先導した。
それぞれ帰路に就こうとしたその時。
「My friends have an event tonight. (友達のところでイベントしてる)」
アンナがスマホを触りながら呟いた。これからそこへ一人で向かうと言う。
その横顔は孤高のフィリピーナと例えるにふさわしいもの。堂々とした勇姿だった。
「I’ll follow you. (行くよ)」
「What? (何?)」
「Let’s go everyone! (みんな行くぜ!)」
私は共鳴した。
レンジさんの指名って遠く火星からも呼び寄せてしまうんですね🤣
ここら辺から色々起こるんですね✨
楽しみです😆
以前火星に行った時ある家族に命を救われました。火星人は良い人が多いですね。