レンジ 宇宙飛行士

 

[前回のあらすじ]

フィリピーナ彼女とその母親が来日して8日目。クリスマスの大阪。市内の観光、買い物をしてホテルへ。最後の夜はホテルの部屋でホームパーティをすることに。

[前回記事]
【レンジブログ157】フィリピン彼女とその母親と過ごすクリスマス

 

クレイジーマニラの記事は、実際の旅行や取材を元に記述しています。小説風のストーリ仕立てで記述していますので、過去の記事を参照頂けると話の内容が理解しやすいかと思います。また、登場人物の名前等は仮名を用いているところがあります。

 

[序章第一話]
【レンジブログ1】日本人経営者と私、フィリピンでの入国審査へ

[第一章第一話]
【レンジブログ33】プライベートフィリピン女性との深夜デート。マラテのディスコ EXKLUSIVE へ

[第二章第一話]
【レンジブログ51】マニラのフィリピーナが初めて日本の地方都市に来る

[第三章第一話]
【レンジブログ71】マニラでビジネス開始。フィリピーナのコンサルティングで法人設立。

 

レンジブログは第三章で完結しています。

それ以降のエピソードが「オノケンブログ」の内容になります。

[オノケンブログ第一話]
オノケンブログ第一話「転落と後悔」

 

また、レンジ個人のその後のエピソードは「外伝」という形で記述しています。今まで二つの外伝がそれぞれ完結しています。

[外伝一章第一話]
【レンジブログ101】フィリピーナをフィリピン国内旅行に誘ってみた

[外伝二章第一話]
【レンジブログ121】フィリピンから帰国、その日にフィリピンパブへ

 

 

【レンジブログ158】彼女がフィリピンへ帰国、関西国際空港で見送り

 

ーークリスマス、彼女たちの日本滞在最後の夜。

ホテル室内でのホームパーティが終わり、私は母親の片づけを手伝った。

 

しばらくテレビを見た後、日付が変わろうとした頃。

各自の部屋へ戻る。

明日は午前10時のフライトのため、ホテルを7時にチェックアウト、8時に空港着の予定だ。

 

「Merry Christmas and Good night!(メリークリスマス、おやすみなさい!)」

お互いに寝坊だけはしないよう約束し、就寝した。

 

ーー翌朝。

6時半、スマホのアラームを止める。

メッセージを確認するとマルコから「Good morning!(おはよう!)」と、午前5時に入っていた。

「さすが早起きだな」と思いながら、私も急いで歯を磨く。

 

よっし。

これで長い旅も終わる。彼女を日本に招いたこの期間、いろいろあったが良い思い出になるだろう。

これから空港へ送れば完了だ。

 

ーースーツケースを持ち、部屋を出ると、マルコと母親もスーツケースを廊下に出そうとしているところだった。

 

「Did you sleep well last night? (昨夜はよく眠れた?)」

「Yeah, I’m fine! (ええ、元気よ!)」

 

ホテルをチェックアウトし、外へ。息は白く、冷え込んでいた。

 

私はスーツケースをその場に残し、「車を取って来るから」と伝え、近隣のコインパーキングへ。

 

車に乗り込み、エンジンを掛ける。

このとき自然と鼻歌が出る。全てから解放される喜びを抑えられなかった。

 

そして、駐車場を出ようとしたところ……

 

駐車場料金

 

ぶふぇえっ!!

いっ、13,400円?

最後の最後で血の気が引いた。

ほぼ丸二日駐車していたからか? どうやら、料金の上限設定のないところを選んでしまったようだ。

 

しかし、この旅行中に金銭感覚がバカになっていた私は「自分が悪いんだ」と思い直し、料金をすぐ支払った。

今日で終わりだ。もうここで記憶を削除しよう。

でも、13,400円か……。はぁ。

 

ーー車をホテルに回す。

 

スーツケースをトランクに入れ、二人を乗せる。

空港へ出発した。

 

午前7時台、市内の交通は空いていた。

 

高速に入ると、多少の混雑が始まりつつあった。

年末のこの季節、多くの人が関空へ向かっているのだろうか。

助手席のマルコは眠たそうにアクビをし、母親は涼しい顔で窓の外を見ていた。

 

そして、予定通りに8時、空港の駐車場に到着した。

 

スーツケースをトランクから降ろし、二人の先導で私が運ぶ。来日した時に比べ、お土産を詰め込んだためかさらに重かった。

 

関西国際空港 第一ターミナル

 

その時、私の電話が鳴った。

田原さんからだった。どうしたのだろう。

 

「お疲れ様! レンジさん、彼女たちの出発ってもしかして今日だっけ?」

「はい! そうです、今関空でチェックインするところです!」

「フィリピン航空だよね? まずいなー」

「どうしたんです?」

 

話を聞くと、たった今、田原さんも関空に到着。これから香港に向かうのだが、実は彼も女性と一緒で、私たちにはあまり会いたくないとのこと。

特にマルコは、彼の元パートナーのフィリピーナ『パーリー』と知人であり、彼が他の女性と空港にいるところを正直見られたくないと言う。

……それって、パーリーとは未だ関係が切れてないってことか? 私は深く事情を聞きたかったが、田原さんの気まずそうな雰囲気が真剣なものだと察し、それ以上は聞けなかった。

[パーリーに関する過去記事]
【レンジブログ97】長年連れ添ったフィリピーナとの別れ方とその後

 

それにしても『仕事で香港』だと言っていたのに。『女性同伴』とはさすが田原さん。相手は日本の方かな、それとも現地の人だろうか……。

私も呆れる。ははっ!

 

「田原さん、一応このあとすぐにチェックインして、搭乗口に向かうと思います。たぶん30番台だと思いますけど」

「そうか…… わかった! 出来るだけ接触しないように、時間差で入るわ! ごめんね!」

「いいえ。それにしても、田原さんもヤリますね!」

「ははっ! まぁね。何歳になっても懲りないね!」

「病気ですね!」

「ははっ! 治らないねー!」

 

フィリピン航空 受付カウンター 関西国際空港

 

マルコと母親を連れて、チェックインカウンターへ。

日本からマニラへ帰省する人々、あるいは旅行者ですでに列が出来ていた。

 

ーー私たちの順番が来て、二人のパスポートを預かり、私が日本語で対応。同時に、スーツケースを預ける。

座席は前後を希望。帰りに飛行機から日本を眺めてもらいたいため、右側の窓側を選択した。

 

横でパスポートとチケットを受け取った二人。

表情は寂しそうだった。

 

搭乗開始時間まであと一時間程あった。

しかし、空港内はかなり混雑していたため、早めに手荷物検査を受けるようアドバイスした。

 

ーー南ウィングのゲートへ向かい、検査前の列に並ぶ。

そして、私だけその列から外れる。

 

「Marco, I already miss you. (マルコ、もう恋しいよ。)」

 

「Yeah, me too. (ええ、私も。)」

 

「Please take care always.. okay? (いつも気をつけてね…… わかった?)」

 

頷くマルコの目が潤んでいるのがわかった。

 

くそっ、そんな顔をされたら、悪意満載の私に善意の芽が生えてしまうではないか。

 

「..Range, My answer is “Yes”. (私の答えは”イエス”よ。)」

 

「What? What do you mean? (何? どういうこと?)」

 

マルコは「この男、無いわぁ」と言う表情。しかし、目頭を拭き、すぐ笑顔に戻った。

 

「You! Propose me! (あなた! 私にプロポーズ!)」

 

「Ooohh Aaahh! What!? What’s your answer!? “Yes”!? (おおおっ、あああっ! 何!? 君の答えは!? ”イエス”!?)」

 

「Yes! (そう!)」

 

「Yes!? (本当に!?)」

 

「I said Yes! (”イエス”って言ったでしょ!)」

 

「Will you marry me!? Yes!?(結婚してくれるの!? そう!?)」

 

「Yes!(そう!)」

 

どぅぅうあああああっ!

やったああぁ!

 

私はマルコを体ごと持ち上げ、喜びをこれでもかと強いハグで表した。

彼女が「痛い、痛い、このイノシシがっ!」と言うので離したが、彼女の返事を理解し頭の中で落ち着けるには少し時間がかかった。

 

「But Range!(でもレンジ!)」

 

「What!?(何っ!?)」

 

「I don’t have my ring from you yet. (まだ指輪が無いわ。)」

 

おっ、おう。

それはそうだ。雪山でプロポーズした時は、何も準備していなかった。

 

「I like “Harry Winston”! Remember that.(”ハリーウィンストン”が好きなの。覚えておいてね。)」

 

「What!?(何!?)」

 

ハリー? ウィンストン??

誰だそのおっさんは。

ハリウッド俳優か?

 

私の理解していない表情を察した彼女は、スマホのスクリーンショットを見せてきた。

煌びやかな婚約指輪の写真だった。

 

ぶふぇぇええっ!

ひっ、ひゃく、1,490,000円!?

私は顔面から出得る液体を全て吐き散らしながら仰け反った。

 

マルコは「レンジ、汚ねぇっ!」と顔を拭きながら、笑っていた。

 

「Haha Joke lang! (ははっ、冗談よ!)」

 

……冗談になってない。

それを婚約指輪として渡すのは、日本でも一部の人だろうに。

それに「これが欲しい」なんて、普通言うか? そんなことを言われた男心、それを知らずに発しているなら、クソほど悪魔だぞ。

 

 

関西国際空港 国際線 出発口

 

 

ーー彼女たちが手荷物検査場へ入って行くのを見送る。

 

マルコは最後までこちらに手を振ってくれた。

 

彼女たちに次に会うのは、新年明けてから二月上旬の予定。

 

それまで寂しい想いを彼女にはさせてしまうかもしれない。

 

ごめんね、マルコ。

 

愛してるよ。

 

日本は気に入ってくれたかな。

 

またね。

 

 




 

 

ーーさて。

 

彼女たちの姿が見えなくなったところで、私もその場を離れる。

 

乗客の隙間を縫いながら、駐車場へ。

 

車内にてスマホを手に取り、電話を掛ける。

 

「メリークリスマス!」

 

「……レンジさん、もう一日過ぎてるけど! 連絡もないし、説明してよ!」

 

「ようやく終わったんだ。今回ばかりは難しい任務でね」

 

「何があったの、無事なの!?」

 

「あぁ、こんなものカスリ傷さ。これでしばらく落ち着くはず」

 

「大丈夫? 心配したのよ!」

 

「本当にごめんね。またその話はそっちでするよ。今、NASAにいて、これから向かう」

 

レンジ 宇宙飛行士

 

「NASA!? JAXAじゃなかったの!?」

 

「どうしても必要だって、向こうの政府に言われてね。そうだな、六時間後には現地の電話でコールするよ」

 

「もう大丈夫なの?」

 

「ああ、おそらく地球は守られた」

 

「じゃ、私たちは新しい年を迎えられるのね?」

 

「ああ。俺は所属を外されたけどね」

 

「あれっ、でもアメリカの本土からでしょ…… そんなに早く到着できる?」

 

「ああ。特別なものでフライトだから。ごめん、機密になるからこれ以上は話せない」

 

「そう…… 早く会いたいわ」

 

「俺もミユキに会いたいよ。じゃそろそろ……」

 

私は、「補佐官が呼んでいるから」と電話を切った。

 

 

 

ーートランクから私の別のスーツケースを出す。

 

この後、私の乗るLCCは午後1時発。

 

マルコたちの便とは三時間差。

 

私は再び空港内へ、チェックインカウンターへ向かった。

 

年末年始、マルコには極秘の任務開始。

 

目的はミユキがメインではない。

 

別の女性だ。

 

 

マリー。

 

 

行き先はもちろん……

 

 

マニラ。

 

 

 

[レンジブログ外伝三章終り]

 

 

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レンジ
オノケンと同じ会社の先輩であったレンジ。数年前からマニラを訪れるようになり、やがて現地法人を持つまでに。趣味は海外サッカーTV観戦。 実体験に基づいたフィリピンにおけるマニラの闇、貧困と格差、現地ビジネスなどオノケンとは違う視点の記事をアップしていきたいと思います。

32 コメント

  1. 一読者としてコメント残します!
    いやいや、ラストしびれましたね!!先輩ながらに圧倒的なくずっぷりに一周回って素敵だと思いましたよ!というより、いくつ職業あんねん!!

  2. 三章お疲れ様でした!
    今回も面白く読ませて頂きましたけど…相変わらずめちゃクチャですね?
    補佐官って笑
    新章も楽しみにしてます!

  3. いやー、オチが素晴らしい!
    次も読みたくなるし、早く読みたい。
    マニラネタもそろそろワンパターンかなと思っていたところ、今回の日本編。しかもブログ自体もどんどんパワーアップしてますね。
    お盆はしっかり休んでくださいね。また楽しみにしてます!

  4. 最終話も上手く話が繋がっきて、さすがレンジブログ
    挿絵のくだりが大好き?

  5. レンジがヤバ過ぎるw
    今回私の中でまた好きな記事ランクが更新されたなぁ
    ハリーウィンストン?w
    (大統領?)補佐官が呼んでいるwW

  6. 伏線が小説レベル笑
    内容はとんでもなくクズなんですけど、惹き込まれてしまいました。
    随所にユーモアもあり、最高です!続編期待。

  7. 隊長!
    私も任務で本日マニラ到着であります!
    これから1軒打ち合わせをして、その後tinder で引っ掛けたオネーチャンと、某KTVのオネーチャンと密会であります!
    今回は中東から媚薬を仕入れております!
    結果はいつかトピックスの方でさせて頂きます!
    ラジャ!!

  8. 外伝三章、一番好きです!
    ニヤニヤしっぱなしでしたね。またゆっくり読み直します。
    いつも楽しいブログをありがとうございます?

  9. フィリピーナは嫉妬深く一途な人が多いですからねー、私は何度か修羅場ありです。
    レンジさんも気をつけてくださいよ!

  10. 「右の窓際の席を取る」、この言葉がレンジさんという人物とその想いを凝縮してると感じました。
    その場で彼女の視点を考え、日本を自分を思い出して欲しいのかなと。
    何だかんだ彼女のことを好きなのでしょう。優しいのでしょう。でなければ、そこまで出来ません。
    レンジさんが自然と出来るのは天性の資質か育った環境か。フィリピンがそうさせたのかもしれませんね。
    失礼しました。
    次作も楽しみにしています。

  11. いつも楽しませてもらってます。
    私もフィリピンに行きたくなってきた!
    誰か付いてきて〜怖いよ泣

  12. 最後のセリフ、震えましたね。
    別世界の事のようです。
    いつかレンジさん本人にお会いしたいものです、、

  13. これ…オノケンさん、またハードル上がっちゃいましたね…
    先輩は背中で見せるって、オトコマエなぁ、レンジさん。ある意味厳しい人。
    とりあえず外伝完結お疲れ様でした!
    拍手??

  14. 最近クレマニを知り、ようやく最新話まで辿り着きました…
    ボリュームがあって大変でしたが、あっという間。読みきった後は次が早く読みたいw
    凄いブログに出会いました。
    大ファンより

  15. マリーが最後出てくるとはw
    彼女のファン?なので、その後のエピソードが気になりなりますね…

  16. 先月初めてフィリピンに行ったことがきっかけで、このブログに出会い全話読ませていただきました。
    自分はオノケンさんタイプかと思いながら読み進めてましたが、今回の来日編を読んでいるとレンジさんと自分が重なってしまいました。
    私はタイ女性と交際してまして、お互いがタイと日本を行き来してます。
    今回は彼女が来日し道頓堀周辺で滞在。国が違っても同じような行動ですね。ドンキ大好きです。
    そして昨日、関空から帰りました。いや、帰ってくれました。
    さみしい気持ちと、ホッとする気持ち、読み進めると自分のことのように伝わってきます。
    来月タイに行きますが、もちろん彼女に会うのが目的です。決して違う女性目的ではありません!(たぶん)
    くれぐれも刺される事のないよう気をつけて下さい。今後の執筆を期待してお待ちしています。

  17. 何だか皆さんのコメント読んでると自分自身が嬉しくなります。
    皆、フィリピンとクレマニが好きなんだなぁと。
    私も重度の読者ですが、こんなにコメント付いてるの初めて見たような気がします。
    これからも更新楽しみにしています!

  18. 小説出たら読みたいっす
    活字でこんなに熱中したことありません
    ありがとうございます?

  19. オノケン氏のピュアな良さも大好きだけど、レンジ氏のゲスいワルさはクセになるなぁ。
    デブでブスのキャラが、ハッタリ一発でどこまで美女たちに食い込んでいけるのか。
    今後も楽しみにしています!そのうち、マニラですれ違いましょう。

  20. 人気ブログと聞いたので、試しに読んでみたら、全部読む羽目になりました笑こんなにブログに熱中したの初めてですねー
    オノケン新シリーズも楽しみ!

  21. 空港の下りは感動したが、その後の行動がKGBかMI6ばりの素早さだった。そんなレンジさんがたまらなく面白いし魅力的です♪もしかして、忍者ですか?

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