マニラに舞い降りた日本人男性

 

ーー彼女の悲しみが爆発。室内に響く号泣。ただ見守るしかなかった。

 

「Marry.. Are you okay? (マリー…… 大丈夫?)」

感情が崩壊してしまった彼女は反応しない。すすり泣いている。くっ。その姿を見て私も息苦しくなる。

何を知ったのだろう……。

まさか早めに到着していてバーチタワー下でメテオとの別れ際を見られた? それかもっと前に? いやもしかして日本でのことか?

 

マリーは少し顔を上げた。

 

「..I found it. (……見つけたのよ)」

 

 

【レンジブログ210】マニラ夜遊び結婚前夜の絶体絶命から逆転劇!?

 

 

あそこまで問い詰められたらおそらく普通は白状するのだろう。私も相当に往生際が悪い方だが今回ばかりは諦めた。いや諦めかけた。

『しかし待てよ』と。

マリーは私の乱痴気を疑う”何か”を掴んだ。それは間違いない。いつどこの出来事かは分からないが彼女は私の悪事を確信した。

それは何だ。それを知りたい。それ次第で私の言動は変化する。

彼女の様子が落ち着くのを待った。

 

ーータイミングを見計らって彼女にティッシュを渡すと鼻をかんだ。

 

「Marry. Can I ask? What did you find? (マリー。聞いても良いかな? 何を見つけたの?)」

 

しかし素直には教えてくれない。

彼女は少しずつ反応し始めた。

そして過去の経験を話す。「20歳のとき妊娠したら元カレは去った。私は彼を本当に愛していた。そして心に深い傷を負った。もう二度とそんな思いはしたくないの」と。

それは出会った頃から何度も聞かされており私はその度に「私はそんな男ではないよ」と諭していた。

「私が元カレ以上の存在になる。君は辛い体験を必ず忘れるから心配しないで」と口説き文句によく使っていた。

この時も同じようなやり取りが続いた。

 

彼女も必死だった。「レンジだけは違うと信じて今まで一緒だった。こんなに長い期間男性を信じ続けた。あなたまで嘘をつくなんて去ってしまうなんて耐えられない。だからせめてあなたの口から聞きたいの」と。

今回は彼女にとって到底見過ごせないことが起こりどうしても問い正したいのだ。

「Please Range. Tell me the truth. You have.. (だからお願い。本当のこと言って。いるんでしょ…)」

 

私はついに覚悟を決めた。これ以上彼女を苦しめる訳にはいかない。

「So.. What did you find? (で…… 何を見つけたの?)」

 

マニラ ブログ

 

マリーはうつむき、しばしの沈黙を挟んで口を開いた。

「..Pantyliner. (……パンティライナー)」

 

はぅあっ!? 女性用生理用品だと!?

 

マリーが来る前にバスルームは使わせていない。メテオは確かに入る前だった。まさかバルコニーでの電話中に使用したのか!?

いやあの短時間で交換作業など難しい。彼女は確かにキッチンに居た。

となるとアンナだろうか。昨夜から半日は一緒に過ごした。大なり小なり交換なりしているはずだ。

はっ、しかもルームクリーニングが入ってなかった。そうかトイレのごみ箱に入っていたのだ。

くそぉぉおうっ! 何という失態だ!

 

あれ…… でもアンナはメンテナンス中ではなかったぞ。ダブルヘッダーでどちらの試合でもその兆候は無かった。今夜も私の部屋に来たいと言っていたのでその可能性は低い。

パンティライナー…… はて、誰のだ?

ホテルスタッフのものとか直前の宿泊客のものとかマニラならありえる。つまりそれだけでは私の所業を決めつけることは出来ないはずだ。

そうだこれは逆転出来る。華麗に欺けるぞ!

「Pantyliner? I don’t know. Where? (生理用品? 知らないな。どこに?)」

「Bathroom. (バスルーム)」

マリーは再び頭を抱えて泣き始めた。「私は今家族を養っている。私の姉妹は全く助けない。私しか居ないの。でもあなたが居るから安心できた。夫婦として一緒に支え合えると思ってた」彼女は彼らの姿が浮かんだのか泣きじゃくる。

「Yeah, I know your situation. (ええ、知ってるよ)」

今は『結局経済力かいっ!』という凡庸なツッコミはどうでもいい。

「But Range, you’re such a liar. I didn’t expect you to have other girls.. (でもレンジ、あなたは最悪の嘘つきだった。他に女が居るなんて……)」

「NO! Never! (違う! 居ない!)」

「Fxxk! You’re a liar! (嘘よ! 嘘つき!)」

「NO! (違う!)」

「Okay! What’s that!? (じゃ、あれは何なのよ!?)」

「It’s mine! (俺のだよ!)」

「What!? (えっ!?)」

 

感情の昂りが私を昇華させた。『俺のナプキン』という文言はマリーを圧倒したのだ。私は説明を続けた。

「恥ずかしい話なんだけどマニラに来ると我慢汁(Kupal, Precum)が垂れ流し状態になってしまうんだ。昼間に街を歩いているだけなのに!」

私は股間を押さえてマリーに指し示した。

「だからナプキンをしている時がある。特に今回は二年ぶりのマニラ。尋常ではない量だったので女性用ナプキンをコンビニで買い活用した。そりゃ股間はもっこり気味になったし人々の視線は私の下半身に集まった。惨めで辛かったさ。君に私の気持ちが分かるかい」

私は正気だ。これくらいの言い訳はすぐ出てくる。さあどうだ。

しかしマリーの表情はすぐれない。

あれっ、嘘ってすぐバレたのか?

「Range, No way.. I found tissue. (レンジ、違うのよ…… ティッシュを見つけたのよ)」

「What!? (はい!?)」

ティッシュだと? それがどうしたのだ。

マリーの説明では「ティッシュをナプキンとして使うために特殊な折り方があるの。言ってる意味分かるよね?」と。

そうか。オリモノを受け止めるために……。

初耳やん。そんな折り方知らんやんか。

詰みやん。

しかも我慢汁垂れ流しナプキン野郎ってとんでもないレッテル貼ってもうたやん。どうすんねん。

 

よっし。もう潔く認めよう。『この部屋に女性が来た』と。

マリーを失望せることになるが彼女は真実が知りたいのだ。

私が示せる誠実さとはきちんと説明すること。男としてこれ以上のブスは許されない。

「実は昨夜隣のベラージオスクエアでケンさんと飲んでいたんだ。すぐホテルに戻るはずだったが女性二人組に声を掛けられて。私とケンさんは久しぶりのマニラともあって舞い上がってしまった」

ベラージオスクエア

「私がここバーチタワーに滞在していることを告げると女性たちは『夜景が見たい!』と言ったんだ。最初は断ったんだけどケンさんが『少しくらい良いでしょ』と言うので私は仕方なく部屋に招いた。そして少しお酒を一緒に飲んですぐ女性たちは帰宅した」

マニラの夜景 マラテ フィリピン

「おそらくその間に一人がトイレを使ったかもしれない。決して後ろめたいことは無いんだ。何も無かった。ただマリーはその事実を知って気分が悪くなるだろうと思い話さなかった。私はそこまで配慮が足りてなかった。軽率なところがあったのは認める。そこは本当にごめんなさい。ただし何も無かったのは信じてほしい。私が愛しているのは君だけだ」

100%架空の話なのだが私は涙を流しながらそのエピソードを披露した。「ゴリラの誘いを断っていれば。本当にごめんなさい。断り切れなかった私も悪いんだが、最初に誘った彼が最も悪いんだ」とケンさんに罪を擦り付けた。

 

加えて決定打を放つ。

日本から持参した正式書類の戸籍謄本だ。それをマリーに見せた。

ほとんど漢字なので彼女に内容は分からない。しかしそのオフィシャルな質感は伝わるだろう。

印籠の様に見せ「明日提出する。君と結婚する。このことを優先的に考えてほしい」と。

さらに「私は君だけを愛している。それはこれからも変わらない。他に女なんて居る訳がないんだ」と。

 

「..I see. (……分かったわ)」

 

勝負あり。

 

「Marry, come here. (マリーこっちおいで)」

「But I was so surpri.. (でも私本当に驚い……)」

「Marry! Don’t say anymore. (マリー! もう言うな)」

彼女を膝上に誘った。

彼女を抱きしめ囁く。「いいかい。今まで色々あったけど何も変わらないことがある。君への愛だ。繰り返すが君だけを愛している。君は二度と裏切られることはない。信じてくれ。分かった?」と。

「Yes. (うん)」

「Come. (おいで)」

お姫様抱っこでベッドへブチ投げた。

マリーが『キャッ』と笑い、枕を持って私を指さした。

「You’re my king. (私の王様)」

 

さぁ試合開始!

 




 

ーー午前9時過ぎ。

マリーは眠りに就いた。

私はそれを確認してケンさんに『お疲れ様。色々あって今日は無理かも』とメッセージを送った。

 

ーー下着類を洗濯しているとケンさんから電話が掛かってきた。バルコニーへ出て電話に出た。

 

「はい」

「うわ、声ガッラガラですね」

「うんまぁね。まだ寝ていないのよ」

「え、もう起きたんじゃなくて、まだ寝てないんですか!? 一体何があったんですか?」

「いやぁ、実はね……」

 

私はことのなりゆきを大まかに説明した。

ケンさんは真摯な態度で聞いてくれていたが笑いを堪えているのは伝わってきた。

 

電話を切った後マリーの隣へ横たわり目を閉じる。

何とか乗り切ったぞ。ふうっ。

 

この時は大仕事を終えた気でいたーー。

 

 

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レンジ
オノケンと同じ会社の先輩であったレンジ。数年前からマニラを訪れるようになり、やがて現地法人を持つまでに。趣味は海外サッカーTV観戦。 実体験に基づいたフィリピンにおけるマニラの闇、貧困と格差、現地ビジネスなどオノケンとは違う視点の記事をアップしていきたいと思います。

6 コメント

  1. 何という展開ですか🤣
    ジェットコースターにも程があります😆
    よく乗りきましたね✨さすがはレンジさん!
    しかし、結婚ってホントだったんですね😅

    • 自ら蒔いた種が育ちすぎて家ぶっ壊れるみたいなそんな感じですね。あやうく難を逃れた気がしましたが…… 今後の展開にご期待ください!

  2. まさかの展開🤣レンジさんはそこら辺完璧だと思ってたのに✨
    ちなみに自分はいつも最重要項目としてルームクリーニングは欠かしてません😂

    • いやーマジで凡ミスでした。元々綺麗好きなんですけど頭の中散らかり過ぎててそこまで注意が回らなかったです。

  3. そうです。悪いのはオノケンさんです…😂
    よそ見が多いレンジさんですが、いざという時キッチリ締めますね。さすがです!

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